宇宙兄弟#74「魔法の裏技」
誰もが、誰かを想起する。
自分を。あるいは、かつて通り過ぎてしまった大事な人を。
投影し、想いをかける。そんな人物が、南波六太なのだなあ。南波六太という人間の、意外な(?)人間としての幅広さなのだなあ。
そんなことを改めてしみじみ感じさせてくれる、バトラー室長のエピソードでありました。
人間は年を重ねると思い出回路が発達しちゃって、なにかと類型に当てはめたくなる。ということもありましょうが。
過去を振り返るのみではなく、未来に賭けたい、この人物に賭けたい。そう思わせるだけのものを持った主人公が、六太なので。
ただしそれが、生来備わったカリスマというわけではなく、これまで生きてきた人生経験によるものである。と、ご都合主義ではないと納得させる描写がちゃんと備わっているのがミソ。
加えて、バトラーの「思い出回路」を刺激するためのトリガー……バーティカルクライムロールの披露、という手段を、的確に選び取ったことが、人たらしとしての才能なのかな。
サラリーマンとしての才覚、と本人は言うてますが。
手段はそうであれ、本質はやっぱり違うよね。でなければ上司に頭突きくらわせてリストラされたりしないよね……。
ところで、今回のクライマックス、バーティカルクライムロールのシーンが美しすぎて、何度も見返してしまいました。
BGMが止まり、一瞬静寂となり、次の瞬間に空へと昇るT-38。
宇宙兄弟ってBGMもとても気に入っているのですが、こういう見せ場、肝要なところであえて静寂を取り入れる、そのセンスがまた良いのだなぁ。
とてもとても気持ちの良い、名場面でした。
きっと、長いこと、私の心に残ることでしょう。
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最新22巻は10月発売予定。なんだかこれまでになくゆるい表紙ですが、内容はけっこうシビアな巻……に、なるはず。
まあ六太ですから。なんだってひょいひょいっと飛び越えていってくれることでしょう。六太ですから。