坂道のアポロン#9「ラブ・ミー・オア・リーヴ・ミー Love me or leave me」

 いつにも増して静謐な印象が強く、それゆえにラストのカタルシスがパキッと決まってくれる回でした。

 この作品、始まった当初はとにかくセッションのシーンが話題で、私も度肝を抜かれたひとりですが、良くも悪くもそれに慣れてきて、むしろ演奏以外の細やかな描写の丁寧さ、美しさに酔いしれる最近です。
 例えばアバンの、煙草がじりりと熱を発して灰になる小さな表現であるとか、百合香と律子がごみ箱の横で語り合うシーンで遠く小さく輝く月であるとか、毛糸にじゃれつくにゃんこかわいいよにゃんことか、小技が実に効いていると思うわけで。

 何がいいって、楽器演奏もそうですが、実写的な演出と見せかけて、実はアニメでなければ表現が出来ないor難しい演出なところ。
 原作とも、実写とも違う、アニメならではの演出で、物語の持つ魅力……ポテンシャルを、最大限に引き出している。それが見ていて楽しく、嬉しく。

 物語としても、ここは大きなターニングポイント。
 軸であった恋愛関係について、物理的あるいは感情的に決着がついた部分と、整理された部分と。
 律子の心の変遷はとてもリアルで、悩みを吐露することもあって、若干ずるいと思われかねないところを、しっかり共感させてくれました。

 出色はやはり最後、駆け落ちシーン。
 百合香を大切にするために別れを告げたけれど、置いていくことがむしろ百合香を百合香では無くしてしまう、百合香の人生を百合香のものでは無くしてしまうのだ、と。そう気づくに至った淳一の表情は、胸に迫るものがありました。

 全体のテーマにも肉薄しているのかもしれない。己が己らしくあるために、どのように生きていくか。生きづらいこの世界で。

 時には、音楽に身を浸し。
 音楽で語り合い。

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ポートレイト・イン・ジャズ+1
 ビル・エヴァンスのアルバム。確かにどことなく(つうかメガネとかメガネとかメガネ)薫と似ている、かも。
 初心者向け、とっつきやすいアルバムらしく、ちょいと惹かれます。「いつか王子さまが」も入っているあたり、「坂道のアポロン」ファン的にも良いかんじ。

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