坂道のアポロン#12「オール・ブルース All Blues」(終)

 余韻を残しつつ、物語はきっちりと閉じて。
 ここまで見続けて良かったとしみじみ思える、とても美しく着地した最終回でした。
 原作既読の方はいろいろと複雑な気持ちになったようですが、そういう意味で、あえてラスト近くはアニメを先行して見て良かったかな、と。
 未読の状態で見て、特に不足に感じる箇所はありませんでしたし。

 Aパートは、とにかく感情の積み重ねが丁寧で、ひとつひとつの仕草に血が通っていて、見ごたえがありました。
 以前、薫が地下へ降りるシーンについて書いたことがありましたが、それと同種の感動が、ここにもそこにも。律子との勉強会のくだりは殊に、ひとつ間違えば単に重くて地味で厭なシーンになるところを、ぴんと糸の張ったような緊張感を保つことにより、見ていてじっくり面白味を感じられるものになっていたと思います。
 そして上京、別れ。淳一と百合香のことを思い出させるものであり、彼らとは違う「別れ」を重く感じさせるものであり、けれどどこまでも美しく切ないものでもあり、沁み入るほどに名場面。
 作品中の時代において、東京と佐世保は、時間的・金銭的に現代とは比べ物にならない遠さであったことも思い合わせると、さらに切ない気持ちに。

 後半、Bパートは、怒涛の展開でした。
 青春は終わり、八年の時が流れ。この時間のすっ飛ばし、けっこう賛否両論のようですが、個人的には英断であったと思います。甘ったるさがほどよく抜け、けれど未だ生活に擦り切れてはしまわないあたりの年齢で。
 薫のその後、かつての同級生のその後が、くどくない程度に描かれた後、本題へ。

 教会に入り、布を被せた何かが見えた時点で、またこの下に千太郎?と一瞬思いましたが、そう思わせてそこにあったのはドラムセット……というのが、また憎い演出。
 弱った千太郎ではなくて、朗らかで強靭な千太郎の象徴である、ドラムセット。それを見て、笑い出す薫。すべて、救われた気持ちになれる瞬間。
 そして奏でられるオルガンの音は、きっと、どこまでも届く。

 最後の演奏シーンは、贈り物のようであり。
シチュエーションは全然違うのに、どこかしら、あの文化祭を思い起こさせるのが不思議でした。
交わす言葉は何も無しに、音楽だけで、一度は切れたと思った心が、繋がっていく。周りにも、輪を広げながら。

 1クール12話に、原作全9巻の内容。詰め込みすぎとの声もありましたが、上手な切り取り方と大胆な省略で、むしろ濃縮された感すらある、引き締まった作品でした。
 とかく演奏部分の作画ばかり語られがちではありますが、再三書いた通り、地に足のついた人物芝居の作画と演出もまた素晴らしく、盛り上がるべきところと抑制を効かせたところと、いずれも見ごたえがあり、常に物語に寄り添ったものであったと思います。
 少女マンガが原作の男同士の友情ものということで、若干女性向けの表現が多く、男性には違和感もあったかもしれません。そのへんはまあ乙女の夢見る「男の友情」のイデアということで納得していただければ。
 第一、作品の完成度の前では、些細なことであったとも思うし。

 存分に堪能させていただきました。
 スタッフの皆様、素敵な作品をありがとうございました。

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 原作最終巻の表紙は、こうやってみると、だいぶネタバレな……ってまあしょうがないけれど。
 しかしまあ、とりあえず薫さん髪切ろうよ。短髪にしようよ短髪に。そしてメガネを銀縁にして、素敵にシニカルなお医者様になっちゃってくれ。という個人的な萌え属性要求。ああ、台無しだ台無しだ。

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